日本・世界の自転車と街
旅や仕事・日常生活を通して、日本そして世界の自転車にまつわるトピックスを、
様々な分野で活躍するサイクリストが語ります。

2020年12月18日

「無理をしない。そして今その時を楽しむ」長く笑顔で走り続けるイタリア流サイクルライフのすゝめ

2002年から3年間、イタリア最大の経済都市であり、ファッションの街としても知られるミラノに住んでいたことがあります。滞在中には縁あって世界のトッププロロードレース大会のひとつであるジロ・デ・イタリアに数回取材で携わる機会もあり、レースから日常生活まで様々なイタリア自転車文化に触れることができました。

イタリアに行く前から、宇都宮で毎年開催されているジャパンカップ・サイクルロードレース観戦やMTBに乗ってサイクリングを楽しんでいた経験もあったので、「イタリアはサイクルスポーツが盛ん」ということは分かっていたのですが・・・聞くと見るとでは大違い。レースの熱狂はもちろん、日常生活でスポーツサイクルを楽しむ何気ない姿に感動することが多く、今の私自身のライフスタイルに大きな影響を与えてくれました。

イタリア全土を春のピンク色に染めるジロ・デ・イタリア。観戦は家族や仲間と一緒に楽しむ大切な時間

私が取材で携わったジロ・デ・イタリアというロードレースは、毎年5月に開催されるイタリアの春の風物詩です(2020年は新型コロナウィルス感染症の影響で10月に開催)。1カ月弱ほどの期間、毎年コースは変わりますがイタリア全土の様々な町や都市を結んで(近隣諸国を走ることもあります)、レースが開催されます。

イタリアの5月は気候も良く、レースのスタートやゴールとなった町では屋台が並び、コースとなっている沿道に詰めかける人、選手を見やすいように家の屋根に上ってしまう人、ベランダや庭にテーブルを出す人など、様々なスタイルで選手たちが来るのを待つという風景が見られます。熱狂度合いで言えば、日本のお正月に行われる大学駅伝と少し似ているでしょうか。

開催地となる町はちょっとしたお祭りの雰囲気です。レースのテーマカラーはピンク(ローズ)色。そのため町や沿道には多くのピンクの旗やリボンなどがはためき、高齢の方から子どもたちまで、まるでピクニックのような雰囲気で観戦を楽しみます。選手が通り過ぎるのは一瞬ですが、何時間も前から家族や仲間と一緒にワインなどを片手にお喋りに花を咲かせている様子は本当に楽しそうです。

この時期にイタリアを訪れる機会がある方は、ロードレースのことを分からなくても開催地となっている町や都市を訪れて地元の人の様子を見るだけでも、レース観戦という一瞬をマルマル1日の楽しみに変えてしまうイタリア人の「その時を楽しむ」姿を垣間見ることができると思います。

無理をしないから長く続けられる。これがシニアになっても自転車に乗り続けられる秘訣

レースのお祭り騒ぎだけでなく、自分で自転車に乗って楽しむこともイタリア人は上手です。

ミラノの中心街は石畳の道がほとんどで自転車は少し乗りにくいため、日常生活の足としてはバスやトラム、地下鉄などを使う人がほとんどです。しかし郊外に行くとロードバイクで走るサイクリスト、それも若い人だけでなく、高齢のサイクリストも多く見かけます。

そういったサイクリストは、たいていライドの途中でカフェで休憩し、一杯のエスプレッソを飲みながらマスターと談笑していたりします。

「年を取ったから運動はできない」ではなく、走りを楽しみ、景色を楽しみ、知り合いとの会話を楽しみながら「自分がやりたいことは楽しみながら続けていく」と肩肘を張らずに自然体でロードバイクに乗る姿を見ていると、これが高齢になるまで長く自転車と付き合っていく秘訣ではないかと感じます。

異文化での生活は発見の連続です。良いなと思う部分もあれば、違う面もあります。しかし、自転車を通して感じることのできた「自分がやりたいことを求めて、リラックスしながら人生を楽しむ」点は、イタリア時代に感じた見習うべきライフスタイルだと思います。

筆者プロフィール

増田明子/千葉商科大学人間社会学部教授

1996年早稲田大学商学部卒業。2002 年イタリアのミラノにあるIULM Universityに留学し、 Master in Retail Managementを修了。イタリア留学中に ジロ・デ・イタリア取材の通訳などを通して、現地の自転車文化に触れる。日本に帰国後は、早稲田大学大学院MBA、博士後期課程を経て現職。イタリアの自転車事情や街情報に関心が高い。現在一児のママで子供(5歳)が自転車デビューしたばかり。