日本・世界の自転車と街
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様々な分野で活躍するサイクリストが語ります。

2020年11月25日

自転車で旅する日本の名建築/水都・大阪の“今と昔”をめぐる休日はいかが?

土佐堀川越しに見られる旧大林組本社ビル(中央の茶色の建物)、福原ビル(右手のクリーム色の建物)

商業の街として栄えてきた大阪。なかでも大阪市を流れる土佐堀川周辺の中之島や北浜、船場は、江戸時代から船着場・物資の荷揚げ場として賑わい、諸藩の蔵屋敷が並ぶ物流の中心地として栄えたといいます。

川や堀を使った水運に優れる地として「水都」とも呼ばれ、明治期の土佐堀川周辺は官庁や学校、文化施設が立ち並ぶ新しい経済と文化の発信地として多くの人たちを集めたそうです。

さらに、大正期から昭和初期にかけては東洋随一の商工都市として発展し、近代モダン建築の建物や橋梁が建てられました。物流の中心が鉄道や車に移行した現在では堀川の多くは埋め立てられ、土佐堀川などの上には高速道路が走るなど景色は様変わりしましたが、街を回ればオフィスビルに挟まれるように当時の面影を垣間見られる重厚な建物が今も点在します。

今回は、この水都の中心地をスタート&ゴールに木津川や淀川沿いを走り、明治〜昭和初期、そして現代に建てられた名建築を訪ねる距離約35〜40kmの建物探訪ツーリングに出発します。

自転車でツーリングすることを中心に、ほとんどの建物は外から見学するプランを紹介しますが、建物内にレストランなどがある場合や予約制で見学できる建物もあるので、中に入ってじっくり見学したい人は数カ所に絞ってめぐるのもオススメです。

※自転車で建物探訪する時のマナー/建物内の入館可否・時間はインターネットなどで連絡先を調べて事前確認してください。入館できない建物もありますので無断で建物内へ立ち入り、また建物の近くや内部に無断で駐輪することは厳禁です。各建物に入館の申し込みをする際は、駐輪場の有無も確認しましょう。

江戸時代「天下の台所」として栄えた中之島周辺〜造船所も並ぶ木津川をゆく

スタートは大阪のシンボルの一つである大阪城天守閣がそびえる大阪城公園。自転車は天守閣のすぐ下まで行くことができ(歩行者に注意して走行しましょう)、その近くにはヨーロッパの古城のような外観の旧陸軍第四師団司令部庁舎を見ることができます。

大阪城の手前に見えるのが昭和初期に建てられた旧陸軍第四師団司令部庁舎。現在はレストランなどが入る複合施設「ミライザ大阪城」となっている

「大手門」交差点から西へ走り、松屋町筋(府道102号線)を右折。土佐堀川と大川にかかる天神橋にあるスロープで中之島公園に下りて、さらに西(下流方向)に進みます。公園内は芝生やバラ園などがあり、土佐堀川の左岸に目を移すと川沿いに旧大林組本社ビル(大正15/1926年築) や福原ビル(昭和5/1930年築) 、公園を走り抜けた先には大阪市中央公会堂などの近代レトロ建造物を見ることができます(公園内は歩行者に注意してゆっくり進みましょう)。

中之島の東側にある大阪市中央公会堂。大正7年/1918年に開館し、国の重要文化財にも指定されている建物内にはレストランも併設

堂島川に沿うように走る中之島通を走り、大正10/1921年にできた端建蔵橋を渡って今度は木津川沿いを下っていきます。川沿いの小道に入ってすぐ右手に見えてくるのが川口基督教会。かつて多くの来日宣教師も住んだ外国人居留地だった川口町の歴史を垣間見ることができます。

木津川近くの川口基督教会。明治14年/1881年に設立され、大正9/1920年に礼拝堂が建設。阪神・淡路大震災で大きな被害を受けたが平成10/1998年に復元

木津川沿いを進むと、右手にガラスと木材の間に緑を配した大胆なデザインのハグミュージアム、その先には野球やイベント会場として有名な京セラドーム大阪が見えてきます。直線的な形状のハグミュージアムと曲線によって作られた京セラドーム大阪とのコントラストが印象的です。

京セラドーム大阪方向に進み、ドームの下を走る道を時計回りに走って最初のカーブを左方向に出て、尻無川に沿って進んでいきます(川沿いは大型トラックが走ることもあるので注意して進みましょう)。

木津川から離れ、京セラドーム大阪へ向かう手前に見える木材とガラスと緑が大胆にデザインされたハグミュージアム。大阪ガス発祥地にできた食と住まいに関する情報発信拠点

渡船に乗って海から水都を眺め、昭和初期の建物で大阪名物・粉モノを満喫する

尻無川沿いを下っていき、甚兵衛渡船場入口前の道を右折。みなと通まで走って左折。みなと通は交通量の多い大通りですが自転車通行帯もあるので、快適に走っていくことができます。

みなと通りを大阪湾にぶつかるまで進み(大阪湾咲洲トンネルに入らないように注意!)、少し折り返して海岸通を左折。この左折する角にあるのが商船三井築港ビル(旧大阪商船ビル)。1階にはうどん屋「築港麺工房本店」も入っているので、近代レトロ建築の中でランチもオススメです。

大阪メトロ大阪港駅から中央突堤に向かう途中にある商船三井築港ビル。昭和8/1993年に竣工した建物の外観には表面に粗い溝があるスクラッチタイルがあしらわれている
商船三井築港ビル 内の築港麺工房本店でランチ。レトロ建築に囲まれた雰囲気の中で、こだわりの出汁と共にうどんを堪能!

海岸通に入ってすぐ左手に見えてくるのが、コンクリート打放しの素材感を活かしたデザインを多用する安藤忠雄が設計した大阪文化館・天保山。その横には建物全体で環太平洋の生命を表現したという海遊館(水族館)と、特徴的な現代建築が続きます。

大阪文化館・天保山は大阪生まれの建築家である安藤忠雄の設計。大阪湾側に開かれたデザインを楽しむため、自転車から降りて海側から見るのがオススメ

道沿いに進み、天保山大観覧車の横を通過し、天保山公園(園内にはかつて日本一低い山として知られた天保山/標高4.53mがあります!)を抜けて、天保山渡船場から地域の人たちの足と使われている渡船に自転車を乗せて(無料)対岸へ。ほんの数分の船旅ですが、水上から眺める景色は格別です!

天保山渡船場から船に自転車と一緒に乗り安治川を渡って対岸へ。大阪文化館・天保山の隣にある海遊館や直径100mの天保山大観覧車を望むことができる

海外の建築士が生み出すインパクト大な名(迷!?)建築を巡って、気分はまるで世界旅行!

渡船から降りてユニバーサルスタジオ方向に北へ進み、「ユニバーサルスタジオ西」交差点を左折してしばらく走って、自転車も横の走行帯を押して通過できる此花大橋を渡るとすぐ左に、カラフルな色彩と摩訶不思議なデザインが組み合わさった建物が出現します。

「これは美術館か?アミューズメント施設か?」と思うような建物ですが、これは大阪広域環境施設組合の舞洲工場。中ではゴミの焼却が行われています。

さらに、この後に進む常吉大橋脇にある舞洲スラッジセンターも合わせて、オーストリアの芸術家であり建築家でもあったフリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーによるデザイン。まるで世界(異世界!?)旅行に行ったような気分になります。

オーストリアの芸術家・建築家フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーによる特徴的なデザインが目をひく大阪広域環境施設組合・舞洲工場

常吉大橋を渡った後は、淀川沿いを上流目指して走っていきます。淀川大橋まで走り、川沿いを離れて街中を走行。JR大阪環状線の福島駅近くの小道に入り、阪神高速11号池田線の下を潜ってすぐに見上げると、なんと!高速道路が建物を貫通している不思議な設計のTKPゲートタワービルが見えてきます。これは名建築というより“迷”に近い気もしますが、現代社会のモータリゼーションが生み出した近未来的な建造物と言えるのではないでしょうか。

JR福島駅近くにあるTKPゲートタワービルは、阪神高速道路がビルを貫くかなり特異な形態をみせるオフィスビル。まるで近未来を描いた映画から飛び出てきた風景!?

福島駅の下を走るなにわ筋を南下し、新町南公園の角にある交差点の一つ手前の信号を左折。街中を進み、阪神高速1号環状線をくぐって2つ目の右手角に見えるのがオーガニックビル。自然との共生がテーマということもあり、建物一面に大型の植木鉢が備え付けられた特徴的なデザインが目をひきます。

大阪メトロ心斎橋駅北側の街中に出現する、大きな植木鉢が壁一面に飾られたインパクトあるデザインのオーガニックビル。外観・内装ともイタリアの芸術家ガエターノ・ペッシェによって手がけられている

重厚な近代レトロ建築の宝庫。三休橋筋・堺筋周辺で東洋一の商工都市の面影を追う

オーガニックビルを右手に見ながらそのまま直進して堺筋を左折。この堺筋と西側を並行して走る三休橋筋の周辺には、日本綿業倶楽部のある綿業会館や船場ビルディング、浪花教会、生駒ビルヂングなど、数多くの近代レトロ建築に出会うことができます。ツーリングではなく建物見学を中心にする場合はこのエリアだけを重点的に走るのもオススメ。

また街中は駐輪する場所を確保するのが難しい場合も多いので、ここまで自転車ツーリングを楽しみ、安全な場所に自転車を停めてから、残りは徒歩でゆっくり建物探訪や近代レトロ建造物の中のレストランでグルメを楽しむのも最高です。

昭和7/1932年に開館した綿業会館。同年 、国際連盟調査団 (リットン調査団)も来館したことがあるという歴史的な建造物。事前予約(有料)で見学も可能
淡路町通に面した船場ビルディングは大正14/1925年に施工 されたタイル張りのオフィスビル。内部中央に細長いパティオ風の中庭が美しく、事前連絡を入れて入館・見学が可能
アメリカ人建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズによって昭和5/1930年に設計された日本基督教団 浪花教会。多くの人に開かれている教会内では、美しいステンドグラスを見ることができる
大阪メトロ北浜駅南側、堺筋に出現する重厚な雰囲気でそびえる生駒ビルヂング。昭和5/1930年に「生駒時計店」の本店として設計され、現在は国の登録有形文化財にも指定されている

筆者プロフィール

星野知大/スポーツ&ジオグラフィックジャーナリスト

日本最大級のスポーツ自転車ショー「サイクルモード」のディレクター&司会、東京都観光まちづくりアドバイザーを務めるスポーツ&ジオグラフィックジャーナリスト。ヨーロッパを中心とした各地を取材し、とくに北イタリア・南ドイツ・イギリスに独自のコネクションを持ち、ユーロバイクや台北ショー、シーオッタクラシックなどの取材経験も豊富。
初めてスポーツバイクに乗る女子サイクリスト向けの「ジテンシャ×ジョシカイ」などの初級者から、イタリアの山岳ロングライドイベント“グランフォンド”に参加する中〜上級者向けの海外ツアーの企画同行まで、幅広いレベルのサイクリストに自転車の楽しさを提供する。
web記事では、@ DIME(小学館)や日経トレンディネット(日経BP社)などに記事を多数掲載。「東京都 伊豆大島」、「三宅島」、「伊豆3島」、「茨城県 行方市」、「所沢・飯能・狭山・入間サイクリングMAP」の制作も担当。