日本・世界の自転車と街
旅や仕事・日常生活を通して、日本そして世界の自転車にまつわるトピックスを、
様々な分野で活躍するサイクリストが語ります。

2021年6月11日

「街の自転車技術」滋賀・Macchi Cycles/自然豊かな地で創り出される。伝統と最新技術を取り込んだクロモリオーダーフレーム

最近のスポーツバイクはハンドルやホイールなどが全て装着された、いわゆる“完成車”と呼ばれる状態で販売されていることが一般的です。しかし20年以上前にサイクルショップを訪ねたとすると、当時のロードバイクはフレームと周辺パーツを自分の好み(と予算)に合わせて別々に選ぶことが普通で、ショップではこだわりを持って一台を組み上げていました。

さらにフレームがクロモリ(クロムモリブデン鋼)などの鉄素材が主流の頃には、ショップに併設された工房などでライダーに合ったサイズや乗り心地を追求したフレームをオーダーすることもできました。フレームをオーダーし、こだわって選んだパーツによって自分だけの特別な一台を手にすることができたのです。

現在、完成車を取り扱うプロサイクルショップが大多数を占めますが、今でもクロモリフレームをオーダーできる自転車工房は日本各地に点在しています。その中で今回紹介するところは、日本初の自転車専門学校「東京サイクルデザイン専門学校」で技術を学んだ若き匠、植田真貴さんが滋賀県甲賀市で立ち上げた自転車工房「Macchi Cycles(マッキサイクルズ)」です。

滋賀の地からライダーが走り続けたくなるような日本製バイクを創り出していきたい

一般的な完成車を販売するサイクルショップで働くことを目指して「東京サイクルデザイン専門学校」に進学した植田さん。

「進学前はクロモリ素材を使ったハンドメイドバイクには興味がありませんでした」と話す通り、自身でもアルミやカーボン素材を使ったロードバイクに乗っていたと言います。

しかし講義を受けるうちにライダー一人ひとりに合わせてサイズ・乗り味などを作り出せるフレームビルディングの世界に魅了され、2015年に地元の滋賀県に「Macchi Cycles」を設立。現在年間40〜50本のバイクフレームを生み出し続けています。

工房兼店舗が立つのは琵琶湖から20kmほど南下した甲賀市の山間地域。陶芸の町として有名な信楽と美しい茶畑が広がる京都府和束をつなぐ中間点にあることから店舗の前をサイクリストが走ることも多いですが、来店するお客さんのほとんどが事前に時間を予約してから来店。

「私一人しかいないので、お客さんが来店される以外はほとんどコツコツとモノづくりに励んでいます。しかしこのような田舎に工房を構えていますが、最近はインターネットやSNSで調べて連絡をいただき、遠方からご注文いただくことも多いですね」

さらに多くの人にクロモリバイクの乗り味・魅力を体感してもらえるように試乗会を開催し、日本最大級の自転車ショー「サイクルモード東京・ハンドメイドバイシクルコレクション」にも出展。注文後には直接打ち合わせもしくはメールで、体格・体重はもちろん乗り方や好みなど十分にお客さんの声に耳を傾けてから製作に入ると言います。

乗り手&造り手の想い、そして最新技術を投入できる点がクロモリフレームの魅力

クロモリ素材を使用したバイクと聞くと「細身の部材(パイプ)をラグでつないで造られている」イメージ(上記写真/ラグ)を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、「Macchi Cycles」では太めのパイプを直接溶接(下記・写真/TIG溶接)するタイプ(ラグレス)や扁平形状のクロモリフレームも使用。さらに最新技術であるディスクブレーキやディスクブレーキホイールに多く採用されているスルーアクスルタイプで、ブレーキ・変速ケーブルをフレームに内蔵できるロードバイク・グラベルロードバイクフレームも製造しています(下記・写真/ディスブレーキ・スルーアクスル・ケーブル内蔵フレーム)。

「工房立ち上げ当初はラグフレームの注文が多かったですが、ディスクブレーキ仕様のグラベルロードバイクの注文が増えている現在はラグレスとラグフレーム半々程度です」

またラグフレーム・ラグレスなどの見た目ですぐわかる違いもありますが、同じクロモリ素材でもパイプメーカー・モデルによって乗り味は異なり、溶接の仕方によっても変わってきます。

Macchi Cyclesではラグ溶接時に低温でパイプにダメージを与えにくい銀蝋(ぎんろう)を中心に多用。「他の工房では真鍮蝋(しんちゅうろう)をメインに使用されている方もいらっしゃいます。ビルダーごとに選ぶパイプや溶接の仕方までこだわりを持ち、それがそれぞれのバイクの個性につながっていくこともクロモリオーダーフレームの魅力です」と植田さんは話します。

ライダーの成長と使い方の変化に合わせてカスタムアップしながら、長く愛せる!

自転車旅などに使用した経験からクロモリ素材はカーボン素材などと比較して壊れにくく、修理しやすい点も魅力と言えます。さらに購入後に乗り続けたバイクにダボ穴(泥よけやキャリアを装着するためのネジ穴)などを追加することも可能です。

今回インタビューを行った筆者が実際に15年以上前に乗っていたクロスカントリー用クロモリMTBを持ち込み、シートステイ上部とフォーク先端にダボ穴とダウンチューブ下にボトルケージ装着用のネジ穴を付け、旅用バイクとして新たに命を吹き込んでもらいました(下記写真)。

「私自身も以前はレースにも使えるロードバイクを好んでいましたが、最近は自宅のある琵琶湖近くからの通勤ライドがメインなので、バイクもフェンダー(泥よけ)やバッグを装着できるものに修正(下記写真)。このようにクロモリバイクは、ライダーの成長(年齢や嗜好など)に合わせて用途を変更しやすいので長く愛していただくことができます(植田)」