日本・世界の自転車と街
旅や仕事・日常生活を通して、日本そして世界の自転車にまつわるトピックスを、
様々な分野で活躍するサイクリストが語ります。

2021年9月6日

「街の自転車技術」東京・カスタムアートペイントZ-WORKS/見えない塗装の下まで職人魂を込め、世界にひとつだけの色をめざす

週末ともなると多くのサイクリストがツーリングなどを楽しむ東京・荒川の河川敷。東京湾へと流れ込む河口から走り始め、地元の少年少女野球チームが試合をする風景やランニングを楽しむ人の姿などを眺めながら進んでいきます。土手からは家々の屋根の向こうに東京スカイツリーを望むこともできるこの定番サイクリングコースから近い足立区の下町に、日本全国の様々なサイクルショップやサイクリストから自転車フレームの塗装注文が舞い込む「カスタムアートペイントZ-WORKS」があります。

15歳から鈑金塗装の世界に入り、その後多くのレーシングカーやモーターサイクル、エレキギターなどへ塗装を施し、20年ほど前から自転車やサイクルヘルメットへのアートペイントも手掛ける平井禅師さん。明るい笑顔で一緒に働かれている優子さんとのご夫婦お二人で一つひとつ丁寧な手作業から様々な色が生み出されていきます。

日本全国のサイクルショップからオーダーフレームの塗装や傷ついてしまったフレームの塗り直しの注文が入るだけでなく、個人で直接依頼することも可能です。塗装やエアブラシアートはもちろんステッカー・デカールの製作、各種メッキなどの受注も行っています。

塗って終わりではない。その先、使う人のことを本気で考えて正直な仕事を続けていく

現在使用している自転車フレームを塗り直す場合の主な工程は、すでに塗装されているものを最初に剥離し、塗装の下に隠れている錆を取り、燐(リン)酸亜鉛処理を行い、下地となるプライマーを塗り、ベースとなる色で塗装していきます。そこから複数の色を入れる場合はマスキングで塗る場所と塗らない場所を塗り分け、その上からクリアで仕上げ、研磨(けんま)して細かなゴミを取って完了となります。

塗装を剥離(はくり)した最初の工程で錆(さび)の状態がひどい時や工場で凹みをパテで修理している範囲が広いことを確認した際は、次の工程に入る前にその状況を報告し、場合によっては「乗り続けないほうがいいのでは?」「一度フレームビルダーさんに相談してみては?」などのアドバイスをすることもあると言います。

左/新規製造フレーム生地に防錆作業を行う前 右/燐酸亜鉛処理を行った後

また錆取りの工程ではこの先乗り続けても長持ちするようにフレームを痛めるサンドブラスターの使用は最小限に抑え、希硫酸(きりゅうさん)で除錆作業を行った後に除錆(じょせい)しきれなかった場合に硝酸(しょうさん)や塩酸処理を行っていきます。さらに塗装の乗りがよくなる燐酸亜鉛処理は錆止め効果も期待でき、塗装後に使用する人の使いやすさを考えながら一つひとつの工程を行っていきます。

「『上から塗ってしまえば見えなくなる』といった、自分へもお客さんに対してもごまかすような仕事はしたくない」と平井さんは話します。

カーボンフレームの塗装では、素材によって下地となるプライマーが乗らない個所がポツポツと出てきてしまうことも多く、その場合一カ所ずつ手で乗せていく作業が続きます。

「モノによっては1本のフレームで5万個所と思うくらい乗せていくんですよ」と笑顔で話す優子さん。下地作りひとつとっても丁寧な作業を行っている、これこそが Z-WORKS が求める高い品質へとつながっていきます。

塗装は隠すものではなく、フレームを作った人の思いを引き立てるものだ

筆者は今回取材だけでなく、長年自転車旅行などで使用してきたクロモリ素材のMTBの塗り直しを依頼しました。デザインやどのような色にするか悩んでいた際、選択できる色数について質問してみたところ・・・

「うちで塗ることのできる色数は数えきれないよ」

とのこと。新素材や新技術を調べ、色の掛け合わせも常に試しているので日々色数が増えていくそうです。

色の掛け合わせ次第で正面から見ると同じような色でも角度によっては発色の仕方を変えることもでき、屋内と屋外との色の見え方も変わってきます。

「いつも塗装のことを考えて本気でこの仕事と戦っているから、色数だって無限に増えていくんだよ」と楽しそうに話す姿が印象的です。

見る角度やボディのカーブによって輝きが連続的に変化していく塗装も可能
太陽光の下では見え方がまた違ってくる。このような特殊塗装は平井さんの得意技

筆者のMTBは角度によって見え方が変化する特殊塗装ではなく、シンプルな緑・白・赤カラーで塗装してもらうことにしました。3色はイタリア国旗のようなイメージで、赤い部分だけ日の丸模様にすることで、このMTBが過去に旅したことのあるイタリアと日本を表現。注文後1カ月ほどして塗り上がった新カラーがこちら!

見た目全体のカラーが美しいだけでなく、溶接の蝋(ろう)部分の形状も見てとれるほど薄く塗装されていることが分かります。

平井さんが目指す塗装は「薄く、長持ちして、傷ついてしまってもそこからダメージが広がりにくい仕事。フレームを作った人のこだわりを厚塗りで隠すようなことはせず、もとの形状の美しさを引き立てるものにしたい」と熱く語ります。